『業務改革』セミナーの冒頭、日本人の国民性に関する欧米諸国の分析結果について私は次のようにお話ししています。「日本人は『改善』は得意だが、その反面『改革』は苦手」。そしてその分析結果から考えられた日本対策とは「日本が勝ちそうになったらゲームのルールを変える」です。これでは永久に欧米諸国に勝てませんね。
具体的な事例としてスポーツ界では①水泳②柔道、ビジネス界では③マスキー法④京都議定書を上げて説明しています。ピンとこなかった方のために一例だけ説明します。当時『日本のお家芸』と言われた水泳で潜水泳法を駆使した日本選手が圧倒的な強さを誇ったことがありました(平泳ぎの田口選手、バタフライの鈴木大地選手等)。その結果、潜水が許される距離が設定されました。そこまでして日本人に勝たせたくなかったのでしょうね。
「日本人は『改革』が苦手」というのは、私の経験からも残念ながらその通りだと思わざるを得ません。長らく農業国だった日本の社会構造は、依然として『村社会』です。田植え・稲刈り等共同作業がある農村で、一番恐れられたのは『村八分』でした。日本の組織内で『同調圧力』が存在するのもそのためです。
そんな組織風土の日本企業で、現状の否定から入る『業務改革』が上手くいくはずがありません。成功事例は外圧(監督省庁の指示・命令や顧客要請)によるものが大半です(日本の組織は「内圧に強いが、外圧には弱い」ため)。しかし中には自主的に『業務改革』を成し遂げた事例も、数こそ少ないですが存在します。
それらの事例の成功要因を分析すると①現状が会社存続の危機であることを全員が認識し②その危機に対し全員が一致団結し立ち向かった、時にのみ成功することが分かりました。私の前職で、設計部長が虚偽の文書を監督省庁に提出したことが発覚し、製品の無期限出荷停止処分を受けた事例が正しくそれに当たります。この時は工場トップの命令で全部署でAIOSを作成、それを再発防止策として提出することにより一週間でなんとか処分解除にこぎつけました。
実はその後もう一つ、顧客・営業・設計・品証・資材(購買)・親会社・サプライヤーを巻き込む大問題が発生しました。それが『製品含有化学物質調査回答業務』です。これは製品の①RoHS指令で指定された物質の不含有②REACH規制物質の含有量について顧客に回答する地味な仕事なのですが、実は結構大変なのです。
当時の状況を説明します。この業務は本来当該製品を設計した人がやるべきものですが、設計部のマンパワー不足を理由に他部署(私の所属部署の環境・品管センター)で代行していました。当初は2名で行っていたのですが間に合わず、最終的には4名で担当しました。それでも間に合わず、本来3週間以内に回答すべきところ、ひどいもので6ヵ月かかる有様で、顧客(含む親会社)・営業からも叩かれていました。
なぜそんな風になってしまったか、その理由は大きく4つありました。
しかし、本当の原因はもっと別の所にありました。それは次の3点です。
こうして書いていて、なんだか情けなくなってきました(苦笑)。しかし社内コンサル養成機関としては最高の職場とも言えます。
さて『非常事態』とあれば、例によって私の出番です。私の業務改革のポイントは次の3点です。
以上の業務改革案を①現状②改革実施後の総工数比較表を作成し、当案に反対したらバカと思われるレベルのプレゼン資料を作成しました。どんないいアイデアも実現しなければなんの役にも立ちませんからね(いいアイデアに限って通すのが大変です)。
ついでに無能で部下から嫌われていた上司(部長)にこの案の根回しを依頼したところ、喜んでやってくれました。部下は上司の顔を立てるのも大事ですよ(笑)。
準備万端整えて、資材・設計・品証・環品セの総勢30名を集めたプレゼンは大成功に終わりました。当案は設計BOMを作成する設計者に負担がかかる点だけがネックだったのですが、「私が作成すれば皆さんが楽になるのであればやります」と言ってくれました!! (そう言いわざるを得ない状況を作った、とも言えます)
設計者U君の頑張りのおかげで、半年後には環・品セの4人が総力を挙げてやっても片付かなかった『製品含有化学物質調査回答業務』が1.5人で楽々回るようになりました。回答納期も即日~3日程度となり、回答の精度の向上しました。生産性が3倍向上しただけでなく、この業務に携わる人すべてが楽になりました。
これが前職で社内コンサルだった私の最後の業務改革事例となりました。参考になれば幸いです。
あなたは気力・体力・根性だけで『非常事態』を乗り切れるとお考えですか?