⑩TMS研メルマガ一覧表

メルマガ第137号

あなたは「コスト意識」の重要性を認識していますか?

 私の前職(中堅部材メーカー)で経理部長だったKさんは、親会社からも一目置かれる実力者でした。原価課長、情報管理室長、経理部長、業改推進センター長を歴任されました。システムにも明るく、会社の基幹業務システムはKさんなしには構築できませんでした。また前職が上場する際もキーパーソンとして活躍され、無能だった総務部の代わりに、会社規程を作成されました。私から見て、その足元にすら近寄れない偉大な先輩でした。

 ところが入社10年目に、Kさんと一緒に仕事をする機会に恵まれました。系列トップの日立製作所がニューヨーク市場に上場するにあたり、コーポレートガバナンスの強化が求められ、当時3社あった子会社を1社に統廃合する必要が生じたからです。

 この業務は本来総務部の管掌でしたが、情けないことに会社法が分かる部員がおらず、Kさんがご担当されました。片道1時間かかる土浦市の法務局に日参する車中、Kさんからいろいろな話を伺うことができました。
 
 「お前が中途入社した時から、俺は目を付けていたんだ」  「新人研修で毎日感想文を書かされただろう。あれは全部課長に回覧されるんだ」  「お前は初日の総務部長の講話に対して 「内容がくだらない」 とクレームをつけただろう?(笑)」 「俺はそれを読んで「なかなか気骨のあるやつが来たな」 と嬉しかったんだ」  「こうして一緒に仕事をすることになったのも、何かの縁なのかもしれないな」

 Kさんは毎朝出社後、事務所の外で黙々と木刀の素振りを励行されていました。古武士を彷彿させる強面の容姿に加え、その名の通り仕事の腕はピカイチ(光一)で、プロパー社員随一の「やり手」でした。そのため近寄りがたい側面もあり、社内では孤立しているように見受けられました。

 おしゃべりしながら仕事をしている我が総務部の横で、K部長率いる経理部は水を打ったような静けさの中、黙々と仕事をしています。総務と経理の職場風土は、大学の文化系サークルと体育会くらい大きく異なりました。私が経理部長席に赴き、冗談を言ってKさんを笑わせると、経理部員の間に戦慄(せんりつ)が走りました(笑)。

 ある経理部員からは「角川がKさんと話すと、いつか逆鱗(げきりん)に触れるんじゃないかって、みんなひやひやしてるんだよ」 「お前は怖いもの知らずなんじゃないか?」と言われたこともありました。

 そんなKさんがある時私にこう言いました。「角川、コスト意識の重要性に気づいてるか?」「長年経理をやっていてしみじみ痛感するが、製品を売って100万円の利益を計上するのと、諸経費を100万円削減することは、経理的にはまったく同じ意味なんだ」 「それなのにどうしてうちの社員には「コスト意識」が定着しないんだろうなぁ…」

 Kさんのなげき(ぼやき?)に対し、私は次のように答えました。「今のお話は「コスト意識」の希薄な社員に指先を向けたものだと思いますが、それでは事態は改善しません」 「その指先は、社員にコスト意識を定着させられないご自身に向けるべきではないでしょうか?」

 確かに私は怖いもの知らずですね(苦笑)。武闘派で鳴らしたKさんに対して、まったく遠慮呵責(かしゃく)がありません。Kさんの顔色はみるみる変わり、逆上しそうになるご自身をなんとか抑えている様子がうかがえます。そして押し殺した声でこう言いました。「じゃあ、お前ならどうやって社員にコスト意識を定着させるんだ? 言ってみろ!!」 角川絶体絶命のピンチです。

これに対する私の答えは、個別業務毎の投入金額(コスト)と成果を1枚のExcel表にまとめた『AIOS業務毎単価ver.』でした。

 現在、システムベンダー各社から市販されている組織マネジメントシステム(ERP)は、下記の二種類に大別できます。

A.業務体系表で投入時間が指標のもの
B.業務目的体系表で投入時間が指標のもの

 私の知見の及ぶ範囲ではERPの大半は上記Aで、Bは1社しか見たことがありません。業務の実態把握にはAで充分ですが、業務生産性向上を図るにはBが必要です。「この仕事は何のためにやっているのか?」という問いかけがないと、今の仕事のやり方に疑問を抱かないからです。

 そしてERPのハイエンドは 「C.業務目的体系表で投入金額が指標のもの」です。A,BCの違いは、Cを構築した瞬間に経理部が組織マネジメントに介入してくることにあります。業務毎にかかるコスト(金額)が把握できれば、組織マネジメントは経理マターとなります。その結果、従来リンクが希薄でそれぞれ別個の存在だった「組織マネジメント」と「財務諸表」が一体化します。これは、後年「組織マネジメント革命」と評されてもおかしくないくらいの意味と価値があります。

 大半のERPがAである理由は簡単です。ERPは1972年に旧西ドイツのSAP社により開発されました。現在グローバル企業の実に87%が、同社のERPを使用しています。このERPが①業務体系表で投入時間が指標のものなのでAが主流なのです。

 予算会議を裁判に例えると、経営者は裁判官、各部署の部課長は被告人、経理部員は検察官です。被告人は検察官から前期予算の使途(つかいみち)について厳しく追及されます。CのERPを構築後は、審議事項に「組織のマネジメント状況」が追加されます。そして他の事項と同様、予算会議席上で経理部から厳しくフォローされるようになります。そのため、全部課長は組織マネジメントに真剣に取り組まざるを得なくなります。

 日本の労働生産性が先進国中ビリ、OECD諸国でも下位である理由は、間接業務の劣悪な生産性が足を引っ張っているためです。直接業務( 現場 )は生産性向上に日々努めているのに対し、間接業務( 事務所 )で生産性を考える人は稀です。生産性向上の担当部署もシステムも存在しません。

 日本企業の労働生産性と利益率双方の向上を図るには、経理部の業務に「間接業務の生産性向上」を追加するのがベストです。ただし経理の判断基準は費用対効果なので、費用(業務毎投入金額)とその成果をExcel表にまとめたもの(AIOS業務毎単価ver.)が必要不可欠です。

 ここまでお話ししてきた内容を時系列に並び替えると、次のプロセスとなります。

【 会社業績U字回復までの7ステップ 】

① AIOS業務毎単価ver.( 組織マネジメントシステムの一部 )を作成する。
② 組織マネジメントと財務諸表が一体化する。
③ 経理部が間接業務( 事務所 )の生産性向上担当部署となる。
④ 予算会議の審議事項に、組織マネジメント状況が追加される。
⑤ 部課長が組織マネジメント状況の改善に真剣に取り組むシステムが構築される。
⑥ 間接業務の生産性が向上する。
⑦ 会社業績および利益率が向上する。

 会社業績向上プロセスのファーストステップはAIOS業務毎単価ver.作成です。これにより、全間接員が費用対効果( =コスト意識 )を常に気にするようになります。そして「コスト意識」は、全間接員を経営者感覚にします。①さえ実施してしまえば、続く②~⑦のプロセスへ自然に進んでいき、途中で止まることはありません。また、後戻りすることもありません。あなたは「コスト意識」定着の重要性を認識していますか?

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