【注】『直間比率』とは、全従業員中の社内の直接員(現場)と間接員(事務所・営業)の比率のことで、会社が儲かっているか否かを判定する指標の一つとされているものです。
前職(中堅部材メーカー、従業員数450名)で営業マンをしていた20年前の話です。東京(晴海)の東京ビッグサイトに出展し宣伝に努めていた営業部員の激励に社長が来てくれ、閉会後に居酒屋で一席設けてくれた時の話です。
A社長は親会社で専務をされていた方で、20年近く同社のアメリカ支店に駐在し、欧米のビジネスに精通しておりました。そのA社長がこう言いました。
「この会社のことは全然知らなかったので、赴任するまではとても不安だった。しかし来てみると皆一生懸命働いており、まずは安心した」
「それから半年が経ち、僕もこの会社に慣れてきた。そこで改めて社内を見渡すと、その日その日を一生懸命働くだけで、会社の将来を考えている人がいるのか心配になってきた」
「試しに部課長クラスと話してみると、10年先は言うまでもなく、5年、3年先のことも考えていないことが分かった。はっきり言って、今期の予算達成のことしか考えていないのではないだろうか?」
「この規模の会社(450人)で、会社の将来を心配している人が社長である僕一人という状況に、心底恐怖を感じる時があるんだ」
この話を聞きながら私は「さすがに親会社の専務ともなると、いい話をするもんだなぁ」と感心していましたが、当の部課長達の顔には「さっさと乾杯して、酒飲ませろよ!!」と書いてありました(苦笑)。A社長もさぞ落胆されたことでしょう。部課長との会話を適当に切り上げた社長は、(おそらく)唯一真剣に話を聞いていた私の前にやってきました。
「君は角川君だったな? 角川君はこの会社の直間比率がいくつか知っているか?」
「いいえ」
「まあ、君の職位では無理もないな。覚えておきなさい。この会社の直間比率は1対1だ。」
「…(無言)」
「君に分かるように言うと、現場で作業服を着ている直接員が、それぞれスーツを着た間接員を背負っている状況だ。信じられるか?」
「心配になって親会社を調べたら、1:3でまあ普通だった。でも国内で普通なだけで、欧米の基準ではダメ会社だ。欧米のエクセレントカンパニーと言われる会社の直間比率は、なんと1:10なんだよ!!」
私のメルマガをご愛読いただいている皆さんには、欧米企業と日本企業の直間比率の差が何に起因するかもうお分かりでしょう。ずばり間接部門の生産性の差です。そしてその根本原因は直接部門には生産管理システムおよび生産管理部門があるのに、間接部門にはそのいずれも存在しないことにあります。
ここで話は変わりますが、私が日本企業の本来「あるべき姿」と信じる未来工業(株)見学セミナーの席上で「この会社の特徴として、本社機能が非常にコンパクトなことが挙げられます。1,000人規模でありながら、未来工業の総務部員はたった5名です!!」と言ったところ、休憩時間に一人の受講者からこう言われました。
「私も総務部なのでたった5名でやっているのが信じられず、さっき案内者の方に確認したところ、人数が違うと言われました」
「えっ…(冷汗)」
「現在は2名でやっているそうですよ」
未来工業は①完全に年功序列のため人事評価なし ②各工場や支店に大幅に権限を譲渡している ③各工場や支店に総務機能がある ④株主総会は別部署が行っている、等々の理由はあるにせよ、1,000人規模の会社の本社総務部員数が2名なんて聞いたことがありません。欧米の基準からいっても超エクセレントカンパニーと言えます。
余談ですが、日本企業が欧米企業によるM&Aの対象としてクローズアップされた頃、同社の創業社長である山田さんが顧問会計士に「うちも外国人に買収されないようなにか対策を考えた方がいいのか?」と尋ねたところ、会計士は苦笑しながら「欧米企業は絶対にこの会社を経営できないから、そんなこと考える必要はありません」と言われたそうです。
なぜ欧米企業は未来工業を経営できないのか気になりますか? その理由は簡単です。欧米企業の組織マネジメントの根幹となる考え方が『従業員性悪説(管理しないと働かない)』なのに対し、未来工業は『従業員性善説(任せた方が働く)』だからです。
御社の直間比率は正常ですか?