⑩TMS研メルマガ一覧表

メルマガ第29号

御社には失敗を認める組織文化がありますか?

 私は組織マネジメントを専門とするコンサルタントですが、前職が製造業だったことから主に工業系セミナー会社さんでセミナーを開催しています。そのため受講者も製造業の方が多いようです。「製造業」「マネジメント」というと、すぐに皆さんの脳裏に浮かぶのは『ISO9001(QMS、品質マネジメントシステム)』だと思います。セミナー冒頭に行っている受講者調査でも、毎回7割前後の方がISO9001認証取得会社にお勤めのようです。かくいう私もISO9001認証取得会社で、その事務局を務めておりました。

 毎年4月に行われる新入社員教育のカリキュラムの中にわが品質管理グループのコマもあり、私のボス(部長・元労働組合委員長)がISOの話をしては新入社員御一行様を心地よい睡眠に誘っておりました(笑)。ボス曰く「昼飯食った後にISOの話じゃ、寝ねえ方がおかしいわな」などと言っておりましたが、内心結構傷ついていたようで、ある時私にその任務が回ってきました。ボスから、新入社員の早期離職を防ぐ目的で、若い頃転職を重ねた私の半生記『人生の失敗学』の作成を命じられたものの、それを一読したボスの「こりゃひでぇ」の一言でボツとなり、その代わりに作成したのが『ISO基礎講義』です。

 その元となった資料は某巨大電話会社のセミナー資料で、東京で受講してきたボスは「俺も初めて聞いた話だけど、ISO9001はお前の好きな失敗学だって言ってたぞ。これを読んでみろ。」と言って渡されたレジュメには、次の内容が記されていました。

  1. 世界で最初に産業革命を成し遂げた工業国イギリスだったが、ほどなく後発のドイツに抜かれてしまった。
  2. この失敗を繰り返さないために、その後失敗が起きるたびにその内容と原因についてカードに記録した。
  3. 200年後( ! )、溜まったカードを原因別に分けると20パターンに分類できた。
  4. それをもとに20の『べからず(Do not)集』を作成した。
  5. その後20の『こうやれ(Shall)集』となり、これがISO9001の全20章になった。
  6. ISO9001とはすなわち、イギリス人の200年にわたる失敗(血と汗と涙)から導き出された知恵の集大成(人類の宝)である。

 このレジュメを読んだ私は、営業目的の認証維持活動としか思っていなかった(思えなかった)ISO9001に初めて真剣に取り組む気持ちが湧いてきたものです。私のセミナーでもパワーポイントを見せながらよくこの話をするのですが、受講者の反応は上々で、アンケートでも高評価いただいています。

 とはいえ現状で満足してしまっては私の講師生命が終わってしまうので、今回6/10(金)のセミナーに向けてこの続編(ベテラン社員向け応用講義)を作成しました。基礎編の概略が「ISO9001=失敗学」なのに対し、応用編は「失敗は成功の母=失敗を認めない組織は滅びる」というものです。「なんだ、そりゃ?」という方もいるでしょうから、簡単に順を追って説明します。

  1. 人間は仕事をすれば失敗することがある。
  2. 失敗を認める会社では、失敗事例を公開し、みんなで原因を分析し、対策を標準化し、二度と同じ失敗を繰り返さない(PDCAが回る)。
  3. 失敗を認めない会社では、失敗を隠ぺいするため、上記②のように有効な再発防止策がとれない(PDCAが回らない)。
  4. 軽微な失敗も放置しておけば、いずれ会社の存続を揺るがすような大失敗の誘発原因となる(ハインリッヒの法則)。
  5. 失敗を会社の「宝」化するも、将来の会社「滅亡要因」化するのも、違いはただ一つ、社内に失敗を認める組織文化があるかないかである。

 どうでしょう?お分かりいただけましたでしょうか?実は私はこのパワポ資料を作成しながら、ずっと原子力発電所のことを考えていました。史上唯一の被爆国であると同時に世界有数の地震大国でもある日本で原子力発電所を建設するには、関係者に大変なプレッシャーがかかったに違いありません。些細な事故でもマスコミに叩かれて大きく報道されるため、自然と事故を隠ぺいする体質になったことは想像に難くありません。その結果、今日あちこちの原発で事故や問題が発生し、東日本大震災の影響もあって、今日稼働している原発は震災前の半分以下となりました。

 それより恐ろしいのは、原発がマスコミから袋叩きにあっている状況を見て、昨今優秀な学生が原子力工学科を志望しなくなってきたことです。学生数が減ったため、教える大学も減りました。今後、日本の原発はだれが面倒を見るのでしょうか?

 そもそも新規事業を始めるのに、「失敗は絶対ダメ」とは無茶苦茶な話です。製造業で言うと、試作も認めない上に「初っ端から歩留り100%でいけ!!」と命令されているようなものです。そんな会社でまともな製品ができるはずがありません。ところが日本の原子力技術者はそれをやりました。国家存続をかけて挑んだ一大プロジェクトに、意気に燃えた最優秀の人材が命がけで取り組んだからこそなし得た奇跡でした(超有名コンサルタントの大前研一氏が若い頃原子力技術者だったのは有名な話です)。しかし、無理が決して続かないのと同様、奇跡も永続は不可能でした。

 失敗を認めない会社には、もう一つ欠点があります。従業員がみな「事なかれ主義」に陥り、リスクを取って新規事業にチャレンジしなくなることです。「なんだか役所みたいだなぁ」と思われたあなた、鋭いです!! 失敗を認めない組織でも滅亡しない業界が1つだけあります。同業他社がない業界です。お役所はその典型です。

 残念ながらその条件を満たさない業界の会社に身を置く皆さんが取る道は2つあります。一つは現状のまま画期的な製品(サービス)も開発せずに業界シェアを落とし続け、静かに市場から消えていく道です。もう一つは、失敗を認める組織文化を醸造し、新製品(サービス)開発に果敢にチャレンジを続けることによって業界内の地位を保つ(上げる)道です。ちなみに海外の会社(欧米やアジア諸国)は、みな後者の道を選択しています。

 御社には失敗を認める組織文化がありますか?

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